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鈴木研究室

研究テーマ

①日本産昆類を用いた分子系統地理・種分化に関連した研究

日本列島は南北に長い弧状の列島であり、亜熱帯から亜寒帯までの幅広い気候帯や複数のバイオームを縦断しています。日本列島に棲息する生物相は、列島形成時に大陸から離裂した陸塊とともに分散したものや、氷期に形成された陸橋を経由して大陸から渡来したもの、さらには海峡を越えて渡来したものなど、様々な要素をもった極めて多様な種群で構成されています。その結果、日本列島は世界的な生物多様性の「ホットスポット」と呼ばれる地域となっています。

 

私が展開している研究では「日本列島の昆虫相がどのように形成されたのか?」を解明するために、種多様性の観点からみると地球上で最も繁栄したグループである昆虫を主な対象として、分子系統解析から対象種 (群) の進化史の推定を実施しています。その中でも、特に近縁種間の「種分化」がどのような要因で生じたのか?あるいは「種分化の途中段階」、さらには適応進化といった現象に興味をもって研究を進めています。

・東アジア産コオイムシ類の進化史と種分化

日本列島を中心とした東アジアにはコオイムシ Appasus japonicus とオオコオイムシ Appasus major の姉妹種が棲息しており、両種の種分化は日本列島形成の歴史と深く関連していることが明らかになっています(Suzuki et al., 2014)。特にコオイムシでは、①日本列島から大陸への逆分散 "Back dispersal" が生じたことや (Suzuki et al., 2014)、②オス交尾器形態が大陸と日本列島の集団間で異なり、大陸−日本列島集団間で種分化の途中段階にあることをこれまでの研究で明らかにしました (Suzuki et al., 2021)。現在はこれらの成果を背景にして、日本列島に分布するコオイムシ類2種を対象に分子系統解析と交配実験から種分化現象の解明を目指す研究を展開しています。

 
 
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・シリアゲモドキ類の系統地理と高山型進化

スカシシリアゲモドキ Panorpodes paradoxa は本州・四国・九州において低山から高山帯まで幅広い環境に棲息しており、高山帯ではメスの翅が短いタイプ (高山型) が出現することが知られていました。これまで高山型は翅の長い普通型と別種であると考えられてきましたが、私たちが実施した分子系統解析から、高山型が各山塊毎に並行的に進化したことが明らかになりました (Suzuki et al., 2019)。このテーマでは、スカシシリアゲモドキの高山型進化をさらに深く追究するとともに、日本列島産シリアゲモドキ属の進化史の解明を目指しています。

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・ニシキイシノミの系統地理と地理的単為生殖の起源解明

ニシキイシノミ Pedetontus diversicornis は長崎県で採集・記載された原始的な昆虫の仲間です。本種は長崎県周辺地域には多く棲息しているものの、他の地域では殆ど採集されていません。唯一、長崎県周辺地域以外で本種が採集されているのは、地理的に大きく離れた東京都のみです (Suzuki et al., 2011)。さらに、九州の集団は両性生殖集団であるのに対し、東京の集団は単為生殖集団で、その起源は解明されていません。そこで、本種の分子系統解析を実施することによって、東京の単為生殖集団の起源の追究を試みています。

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・オオハサミムシ Labidura riparia の分子系統地理

汎世界的に棲息するオオハサミムシを対象に、分子系統地理学的研究を展開しています。日本列島には3つの系統が分散・進入してきた可能性が見えてきました。

・ノザキタニガワトビケラ Kisaura nozakii の分子系統地理

渓流に生息する小型のトビケラの仲間を対象に、分子系統地理学的研究を展開しています。ノザキタニガワトビケラの中には遺伝的に大きく分化した複数の系統があり、連続的な種分化が生じている可能性が分かってきました。

②生物における父育 (Paternal care) の進化・維持機構の解明

コオイムシの仲間はオスが単独で仔育てを行う「父育 (Paternal care)」という、多様な動物界でも極めて珍しい繁殖行動を進化させています。魚類などでもこのような繁殖戦略を進化させている種群は存在しており、タツノオトシゴの仲間やブラックバスなども父育行動をとることが知られています。近年までは、父育行動の進化には父親と仔の血縁関係 (父性) が100%に近い必要があると考えられていました。しかし、コオイムシ類の父性を確認したところ、65%ほどしかなく、これまでの定説とは異なる結果が得られました。では、なぜコオイムシ類では父育行動が進化し、維持されているのか?このテーマではこの謎を紐解くことを目標に、様々な手法・アプローチを使って研究を進めています。

 
 
 
 
 
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©2023 広島生物多様性研究会 (仮)

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